ダイエットには色々な方法がありますが、今回ケトジェニックについて焦点を当てている論文について解説します。
要約
ケトジェニックダイエット(KD)は、高脂肪・低炭水化物の食事によりケトン体の生成を促し、体重減少や一部の病気(てんかんや一部の神経変性疾患)に対して効果があるとされています。しかし、ケトジェニックダイエットには有害な側面もあり、長期間継続的な実行は腎臓や心臓に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。本研究の目的は、ケトジェニックダイエットが細胞老化(セル・セネッセンス)を引き起こすメカニズムを解明し、臓器への影響を調査しています。
この研究は、マウスにおいてケトジェニックダイエットがどのように細胞老化を引き起こすのかを調べています。
・Ketogenic diet induces p53-dependent cellular senescence in multiple organs
実験での発見
細胞老化の誘導:
ケトジェニックダイエットを実施したマウスにおいて、心臓や腎臓などの複数の臓器で細胞老化が観察されました。この現象は、p53タンパク質の活性化を介して引き起こされ、細胞老化マーカー(SA-β-gal)の発現増加が認められました。
※細胞老化マーカー(SA-β-gal)とは:細胞老化の目印となる酵素。老化した細胞では、この酵素の活性が上昇し、中性のpHで活動するため、X-galという試薬で青く染まります。これにより、老化している細胞を特定できます。
※p53とは:細胞のDNA損傷やストレス応答に重要な役割を果たすタンパク質で、「ゲノムの守護者(guardian of the genome)」とも呼ばれます。細胞のDNA損傷を感知し、それに応じて細胞周期の停止、修復、またはアポトーシスを引き起こすことで、がんを防ぐ役割を果たす重要なタンパク質です。これにより、体内の遺伝的安定性を維持し、異常細胞の増殖を抑制しています。その機能が失われると、細胞は異常増殖しやすくなり、がんの発生リスクが高まります。
メカニズムの解明:
ケトジェニックダイエットは、細胞内のエネルギーセンサーであるAMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)を活性化することが知られています。AMPKの活性化は、細胞周期の停止やアポトーシスを誘導するp53タンパク質の蓄積を引き起こします。
p53は、細胞周期阻害因子であるp21タンパク質の発現を誘導し、細胞老化を促進します。
さらに、ケトジェニックダイエット中のマウスでは、血中ケトン体や遊離脂肪酸の増加が観察されます。これらの代謝産物の増加が、p53を介した細胞老化を促進する要因の一つとして考えられています。
※AMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)とは:エネルギー代謝を調節する重要な酵素です。体内でエネルギーが不足するとAMPKが活性化され、エネルギーを節約し、ATP(細胞のエネルギー通貨)の生成を促進するように働きます。
※p21とは:細胞周期の調節に関わるタンパク質で、正式には「p21^Cip1/Waf1」と呼ばれます。細胞がDNA損傷やストレスを受けたときに、p53タンパク質によって発現が促進され、細胞の増殖を一時的に停止させる役割を果たします。
人間への影響:
臨床試験においても、6ヶ月間継続的なケトジェニックダイエットを行った患者の血漿中で、炎症マーカー(TNF-α、IL-1β、IL-6など)が増加していました。これは、ケトジェニックダイエットが人間においても細胞老化と関連する可能性を示唆しています。
可逆性と予防:
継続的ではなくインターミッテントケトジェニックダイエット(断続的なケトジェニックダイエット)を行うことで、細胞老化を抑制しつつ、健康に対する利点を維持することが可能であることが示されています。
また、マウスにおいてケトジェニックダイエットを中断すると、細胞老化マーカーは減少し、正常に戻ることも確認されています。
結論
ケトジェニックダイエットは一部の健康効果を持つ一方で、長期間継続的な実施は細胞老化を誘発する可能性があります。これを避けるためには、個別に調整された食事プランが必要であり、断続的なダイエットの方法も考慮されるべきです。